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名古屋簡易裁判所 昭和60年(ハ)1202号 判決

原告

山岡豊

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

髙木秀卓

右訴訟代理人弁護士

村橋泰志

滝沢昌雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金七三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年六月二二日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告に対し、金三二万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、自動車損害賠償責任保険等各種保険事業を業とする会社である。

2  原告は、昭和五九年一〇月三一日、被告との間で、次の内容の自家用自動車保険普通保険契約を締結した。

(1) 毎月の支払保険料 金三九四〇円

(2) 保険金額

ア 対人賠償 一名につき金八〇〇〇万円

イ 自損事故 一名につき金一四〇〇万円

ウ 保険車傷害 一名につき金八〇〇〇万円

エ 対物賠償 一事故につき金二〇〇万円

オ 搭乗者傷害 一名につき金八〇〇万円

(3) その他細かい点は被告の定めた自家用自動車保険の約款による。

3(1)  原告は、昭和五九年一一月一六日午後六時ころ、名古屋市守山区大字小幡字小林一二四三番地前路上において、原告運転の普通乗用自動車(名古屋五三も一九七〇)と、訴外服部美子運転にかかる普通乗用自動車とが衝突し、原告は傷害を受け、昭和五九年一一月一九日から同六〇年四月一七日まで一五〇日間の通院治療を受けた。

(2)  右自家用自動車保険の約款第四章第七条によると、

「被保険者が自動車事故を起し、通院治療を受けた場合、一日につき保険金額の一〇〇〇分の一の金額を支払う」

旨定められている。原告が加入した保険(搭乗者傷害)の保険金は、金八〇〇万円であるので、その一〇〇〇分の一は八〇〇〇円である。

(3)  よつて、一五〇日間分で一二〇万円となる。

4  被告は右一二〇万円のうち四六万四〇〇〇円を支払つたが、その余の七三万六〇〇〇円を支払わない。

5  前記自家用自動車保険の約款中には、搭乗者が傷害を受け、それが後遺障害等級表一四級(ヌ)(局部に神経状を残すもの)に該当する場合には被告は加入者である右搭乗者に対し保険金額の四パーセントを支払う旨規定する。

6  原告は、自動車保険料率算定会名古屋第一調査事務所で、前記事故による後遺障害一四級に認定された。前記のとおり搭乗者傷害一名につき八〇〇万円の保険金額であるので、被告はその四パーセントに当る三二万円を原告に対し支払う義務がある。

7  よつて、原告は被告に対し、前記4項の七三万六〇〇〇円及びこれに対する本訴状の送達の日の翌日である昭和六〇年六月二二日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金及び前記6項の三二万円の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、(1)は認める。ただし、一五〇日間の通院は通院実日数として認める趣旨ではない。通院実日数は五八日である。

同3(2)中、約款の記載内容は争い、その余は認める。

同3(3)は争う。

3  同4のうち、被告が原告に対して四六万四〇〇〇円を支払つた事実及び同5の事実は認める。

4  同6の事実は知らない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2、3の(1)、4のうち被告が原告に対し四六万四〇〇〇円を支払つたこと、及び5の各事実については、当事者間に争いはない。

二同3(2)(自家用自動車保険の約款第四章第七条中、「通院治療を受けた場合」の通院治療とは、認定治療日数か実通院日数か)について、

〈証拠〉によると、

昭和五九年七月に改訂された自家用車保険の約款第七条一項二号には、搭乗者傷害条項医療保険金の支払対象日数支払額として「病院または診療所に入院しない治療日数(病院または診療所に通院して医師の治療を受けた日数をいいます。)に対しては、その治療日数一日につき保険金額の一〇〇〇分の一」と定められている(乙第一号証)。

従前の約款(昭和五八年七月に改訂されたもの)には、右カッコ書きの記載がなく(乙第二号証)、保険実務上も、搭乗者傷害条項医療保険金の支払対象日数が、認定治療日数であるか、実治療日数であるかが必ずしも明確ではなかつたため、昭和五九年七月の約款の改訂で、病院または診療所に入院しない治療日数を、病院または診療所に通院して医師の治療を受けた日数と規定することにより、医療保険金の支払対象日数が、実治療日数であることを明確にしたものであることが認められる。

してみると、保険加入者相互の救済を計ることを主たる目的とし保険料に見あつた保険金の支給を受けるとする保険制度の趣旨から、右自家用自動車保険の約款第四章第七条中、通院治療を受けた場合の通院治療日数を実通院日数とする右保険実務上の取扱いは、必ずしも違法不当とはいえないというべきである。

本件契約は、昭和五九年一〇月三一日になされているから(当事者間に争いのない事実)、昭和五九年七月改訂の新約款が適用されることとなる。一方、争いのない甲第一号証によつて、原告の本件実通院日数は五八日である。

そこで、被告は原告に対し、右実通院日数五八日に一日につき八〇〇〇円を乗じた四六万四〇〇〇円の支払をなしたものであることが認められる。

三同6の事実について

〈証拠〉を総合すると、

本件約款第四章第六条第五項によれば、後遺障害とは、身体の一部を失ない、または、その機能に重大な障害を永久に残した状態を言い、しかも、愁訴を裏付けるに足りる医学的他覚所見のないものは除かれるものであることが認められる。

しかるに、原告の受けた後遺障害は、後遺障害等級第一四級一〇号に該当する(当事者間に争いのない事実)が医学的他覚所見のある事実を認めるに足る証拠がないので、右約款にいう後遺障害から除かれるものとなる。

四以上請求原因3(2)、同6の事実について、右認定事実に抵触する〈証拠〉は証拠として採用せず、他に右各事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、原告の本訴請求は理由がなく、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官竹山信男)

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